読書記録(2021, 1-10冊目)
1. 新型コロナとワクチン 知らないと不都合な真実
峰先生と編集の方の対話形式で書かれておりサクサク読めました。感染症、ワクチン、PCR検査、情報リテラシーについて丁寧に書かれており、事前知識がなくとも読めるので新型コロナについて勉強するための1冊目としては良いと思います。
本書の内容とは直接的にはあまり関係ありませんが、おわりにで以下のように書かれていました。
誰か専門家や一部の人が対策してどうこうなる、というものではなく、全国民が、世界中のすべての人が、適切に情報を得て行動をしていかなければならない。そういうことが必要な時代になったことは明らかです。
たしかに父権主義(パターナリズム)から意思決定支援への移行は新型コロナに限らず医療全体での大きな流れであり、意思決定支援のために正しい情報にアクセスできるように専門家の方が書籍やweb記事を書かれることも増えてきました。ただ「リテラシーを高めて適切な行動を」というのは医療に限らず幅広く使われているように感じます。すべてのことを各人が情報を集め判断していくことは、どこかで各人のキャパシティを超えていくので、そこをどう折り合いをつけるのかという課題は残るように思いました。
2. 理論疫学者・西浦博の挑戦-新型コロナからいのちを守れ!
1冊目と同じく新型コロナに関連する本ですが、1冊目とは異なり新型コロナ対策の行政の動きが主です。理論疫学の専門家である西浦先生の目線から語られています。
公衆衛生や疫学を多少なりとも学んだ者として、コロナ対策の政治判断に専門家の関与のあり方には関心がありました。本書でも記載されていましたが、今回のコロナ対策においては今まで政治の外側にいた専門家(西浦先生のような理論疫学家も含む)が政策決定に多くの助言をしてきたと言えます。そのような専門家目線で起きていたことを知ることができる貴重な1冊だと思います。
今回のコロナ対策において責任が政治家ではなく専門家にあるように見えてしまった点と科学の前提やモデルの仮定を飛ばして理解されやすい結論が先行して報道された点は、科学コミュニケーションの難しさを表しているように感じました。
3. オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る
台湾のIT担当大臣のオードリー・タンさんの自著です。台湾は水際対策などに力をいれてCOVID-19の対策に成功した国ですが、デジタルを利用した取り組み事例が述べられています。一人ひとりがスマートフォンを所有する社会へと変化していくなかで、政治と国民の関係性を考える上でのヒントになるかと思います。AIが仕事を奪うようなAIによる負の側面が語られることもありますが、AIをよりよい社会に向けてどう活用していくのかという観点から前向きに語られています。
4. ディープメディスン
医療分野でのAI利用が幅広くまとめられています。普段から医療×AIはできるだけ情報をキャッチアップしようと心掛けていますが、知らない事例も多く面白かったです。医療AIにより目指していくビジョンも描かれつつ、いま到達できていることが具体的な事例でまとめられているので頭のなかを整理するのに役立ちました。医療AIに興味はあるがあまり知らない人でも、この1冊を読めばかなり見通しがつくのではないかと思います。
5. この一冊で全部わかる ビジネスモデル
ビジネスモデルを考える機会があり、インプットとして読みました。競合優位性、収益構造や売り方について最近の事例も含めてわりときれいにまとまっておりよかったです。はじめて企画職に関わる人はとりあえず目を通しておいても損はないと思います。
6. 市場の倫理 統治の倫理
社会の倫理を2種類の道徳体系として捉えて整理する試みがなされています。主張は「新たなものを獲得するには交換(Trade)するか奪う(Take)の2つしか存在せず、どちらの方法をとるかにより従うべき道徳が異なる。これらの道徳を混ぜると不道徳な結果が生じる」という非常にシンプルなものです。
でてくる事例が少しとっつきにくく理解しづらい点はありましたが、一貫した主張がなされるので特に迷うことなく読み進められました。これから暫くはトレンドとしてTradeが中心になっていくのだろうと思いますが、Takeも一部残るとは思うので、そういうバランス感覚を考えるうえでも本書は役立ちそうです。
7. ネクスト・シェア
資本主義が進んだあとの組織形態として協同組合が適しているのではないかということを具体的な事例から検討しています。あまり協同組合について考えたことがなかったのですが、対等な関係性で目的に向かって取り組んでいく繋がり方は今後のコミュニティのあり方としてはあり得るように思いました。協同組合ではないにしても、近しい考え方をベースとした国内事例はすでにあるような気もします。
8. 政策はなぜ検証できないのか
この本を読むまで、政策評価制度という制度が法的に定められていることすら知りませんでした。ただ本書を読む限り評価制度のゆがみは大きく、この評価制度をもとにした評価から意思決定を行うのは極めて難しいだろうと思いました。本書では実際に評価する人らの心理面などの検討をしていますが、それ以外の箇所がボトルネックになっているような気がしておりやや不完全燃焼でした。
9. 証言 羽生世代
ずっと将棋界を牽引されてきた羽生世代の棋士やその先輩、後輩へのインタビュー本です。今やAIにより盤面の状況判断がスコア化され正解がわかるようになりました。ただ印象的だったのは、そうではない羽生世代の棋士らはすべてを自分たちで考え抜いてきており、そこで指された将棋を今の将棋よりも好意的に口にする棋士がそれなりにいらしたことです。正解があるなかでの取り組みと正解がないなかで考え抜いてきたことの厚さの違いとでも言えるのでしょうか。
一つの道を究めようとする人たちの言葉は貴重で非常によい本ですが、将棋のルールや戦法を全く知らないと途中わからないことも多いかもしれません。
10. 天才の根源
エッセイを書くことは苦手なのですが読むことは好きなので定期的に買っています。今回はYoutuberの東海オンエアのリーダーのてつやさんの初の自著です。かなりの有名Youtuberで普段は企画を通じてみて楽しませてもらっていますが、こうして頭のなかで考えていることを知れるのは面白かったです。