読書記録(2021, 11-20冊目)

11. 行動を変えるデザイン
行動を変えるデザイン ―心理学と行動経済学をプロダクトデザインに活用する

行動を変えるデザイン ―心理学と行動経済学をプロダクトデザインに活用する

  • 作者:Stephen Wendel
  • 発売日: 2020/06/11
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 行動変容デザインのサービス設計するまでの流れが提案されています。行動経済学に興味があり、サービスにしていきたいあるいは既存のサービスに組み込みたいと考えている人にはちょうど良い1冊だと思います。

 

12. 行動変容を促すヘルスコミュニケーション

  「行動を変えるデザイン」と近いですが、「行動を変えるデザイン」は幅広い領域に対応していますが、本書は医療での話に限定されています。ヘルスコミュニケーションのうち、専門家が一般の方向けに行動変容を目的として医療情報をどのように発信していくのかがテーマになっています。

 正しい情報を伝えても医学的に正しい行動に繋がらない事例は多くあります。そもそも正しさの基準が異なる場合や、医学的な正しさ以上に優先される何かが存在する場合、本人も行動を変えたいが変えられない場合など様々です。

 それらのケースに合わせて最適な形で情報提供をしていくために、考慮すべきことや踏むべき手順、また実際のパンフレットやリーフレットのデザインやテキスト表現までこれまでの研究をベースに紹介されています。

  本書で示されているほど緻密に設計されたサービスは日本にはほとんど見られないのでないかと感じました。うまいことアカデミアやビジネス、行政がコラボレーションしていく必要がある部分な気がします。

 

13. RCT大全

 医療、教育や貧困への政策、犯罪率を下げる施策などのRCT事例が紹介されています。RCTはランダム化比較試験と呼ばれる研究のことで、ある介入の効果を推定するために介入群と非介入群にランダムにわけて2群の結果を比較するものです。経済学だと介入より処置という事が多いような気がします。

 2019年にはノーベル経済学賞がアビジット・バナジー教授、エステール・デュフロ教授、マイケル・クレマー教授に対して世界の貧困削減に対する実験的アプローチへの貢献として贈られました。ここでの実験的アプローチはRCTのことなので、世界的にも注目を浴びている分野だと思います。キーワードとしてはEBPMがよく使われているかもしれません。

 医学でもRCTはよく実施されるので、比較的専門に近い本でした。個人的には本書はややRCTのメリットを誇張しているように感じました。たしかに現時点でRCTが非常にパワフルな手段であることは間違いないと思います。ただし実際にはRCTができないケースも多く、さらにRCTにも一般化可能性の問題や一定の確率で間違うリスクなどの限界はあります。RCTに限らずデータベース研究や観察研究なども用いながらエビデンスを積み上げていく必要があると思いました。

 

14. 効果検証入門

 Twitterで見かけて読もう読もうと思いながら、ずっと読めていなかった本です。効果検証の解析方法を実データに当てはめながら解説されています。一定の数式も出てきます。目次をみてもわかる通り、一般向けの入門書というよりは大学生向けの入門書だと思います。

1 章 セレクションバイアスとRCT
2 章 介入効果を測るための回帰分析
3 章 傾向スコアを用いた分析
4 章 差分の差分法(DID)とCausalImpact
5 章 回帰不連続デザイン(RDD
付録 RとRStudioの基礎 

 個人的には疫学でも用いられる手法も多くわりと読みやすかったです。実データにこれらの解析手法を当てはめたことはなかったので、手元で動かせてよかったです。RのコードがGithubにもあがっておりRの勉強としても非常に役立ちました。

 

15. 進化する経済学の実証分析
[新版]進化する経済学の実証分析

[新版]進化する経済学の実証分析

  • 発売日: 2020/08/20
  • メディア: 単行本
 

  もう少ししっかりと経済学の実証分析を知りたいと思い読みました。教科書というよりはコラムに近く、幅広いトピックを知れてよかったです。経済学の教育を受けたことがないこともあり半分くらいは理解できませんでしたが、データ分析の目的やモデルの仮定、解釈などが医学とは異なることもあり勉強になりました。例えば、医学系の研究だとワクチン接種などを除けば各患者に行う治療が外部に与える影響は考慮しませんが、経済学の研究だとむしろその外部への影響を重要視することもあるといった話は面白かったです。

 

16. ドーナツ経済学が世界を救う

  1972年にローマクラブの『成長の限界』で指摘されていた経済成長の限界に関連する内容です。成長指向ではなくて持続可能性にシフトしようという主張が前提にあります。地球の自然の限界を超えず、かつすべての人の生活における基本的なニーズが満たされている世界の例えとしてドーナツが用いられています。外側が地球の許容値(プラネタリーバウンダリ)で内側が社会基盤(ソーシャルバウンダリ)になり、その間の部分が最適ということになります。

 資本主義経済の次を考える上で面白かったです。思想としてはともかく、実現していくことが難しいとは思いますが、著者らにより都市開発に適用する取り組みも行われているようです。

 

17. 世界はシステムで動く

 著者のドネラ・メドウズさんは、『世界がもし100人の村だったら』の原案者で、1972年にローマクラブの『成長の限界』の主著者でもありますが、難解なことをわかりやすく説明することが非常に上手な方だと思いました。

 

18. 「複雑系」とは何か
「複雑系」とは何か (講談社現代新書)

「複雑系」とは何か (講談社現代新書)

  • 作者:吉永 良正
  • 発売日: 1996/11/20
  • メディア: 新書
 

  20年以上前に書かれた新書ですが、非常にわかりやすくてよかったです。複雑さを考えるときに、単純な規則のもとでの繰り返しにより発生したものと、そもそも複雑であるものを区別する見方や、複雑なものを要素還元せず、かつ安易にモデリングをせず複雑さを複雑なものとして捉えようとする試みは新しい視点でした。

 

19. 現象学とは何か
現象学とは何か: 哲学と学問を刷新する

現象学とは何か: 哲学と学問を刷新する

 

  はじめに現象学の入門的な説明があり、そこから教育学・社会学・医学・心理学での現象学の応用可能性について展開されていきます。あまり現象学について理解できていません。ただ正しさを意識の外側に置かず内側に置きつつも、他者とのかかわりで相対主義に陥らずに集団としての正しさを構築してくことは一つのテーマなのかと思いました。

 

20. ケアとまちづくり、ときどきアート
ケアとまちづくり、ときどきアート

ケアとまちづくり、ときどきアート

 

  医療や福祉がそれぞれの施設内で完結するのではなくて、施設の外側へと広がり地域としてケアしていくための手引きになる1冊です。

 現在行われている医療や福祉に比べて、地域との繋がりや人との繋がりをつくる試みは難しい側面があるように感じています。友達や恋人というのは仕事として付き合う類のものではないため、どうしても社会制度として捉えると不都合が生じてしまうことも多い気がします。

 本書では、暮らしの保健室や銀木犀などの事例を踏まえつつ、実践における思想などが書かれています。目的や地域の特徴によりベストなかたちも異なるとは思いますが、だからこそ具体的な事例を通じて学べることが多い1冊でした。

読書記録(2021, 1-10冊目)

1. 新型コロナとワクチン 知らないと不都合な真実

 峰先生と編集の方の対話形式で書かれておりサクサク読めました。感染症、ワクチン、PCR検査、情報リテラシーについて丁寧に書かれており、事前知識がなくとも読めるので新型コロナについて勉強するための1冊目としては良いと思います。

 本書の内容とは直接的にはあまり関係ありませんが、おわりにで以下のように書かれていました。

誰か専門家や一部の人が対策してどうこうなる、というものではなく、全国民が、世界中のすべての人が、適切に情報を得て行動をしていかなければならない。そういうことが必要な時代になったことは明らかです。

 たしかに父権主義(パターナリズム)から意思決定支援への移行は新型コロナに限らず医療全体での大きな流れであり、意思決定支援のために正しい情報にアクセスできるように専門家の方が書籍やweb記事を書かれることも増えてきました。ただ「リテラシーを高めて適切な行動を」というのは医療に限らず幅広く使われているように感じます。すべてのことを各人が情報を集め判断していくことは、どこかで各人のキャパシティを超えていくので、そこをどう折り合いをつけるのかという課題は残るように思いました。

 

2. 理論疫学者・西浦博の挑戦-新型コロナからいのちを守れ!

  1冊目と同じく新型コロナに関連する本ですが、1冊目とは異なり新型コロナ対策の行政の動きが主です。理論疫学の専門家である西浦先生の目線から語られています。

 公衆衛生や疫学を多少なりとも学んだ者として、コロナ対策の政治判断に専門家の関与のあり方には関心がありました。本書でも記載されていましたが、今回のコロナ対策においては今まで政治の外側にいた専門家(西浦先生のような理論疫学家も含む)が政策決定に多くの助言をしてきたと言えます。そのような専門家目線で起きていたことを知ることができる貴重な1冊だと思います。

 今回のコロナ対策において責任が政治家ではなく専門家にあるように見えてしまった点と科学の前提やモデルの仮定を飛ばして理解されやすい結論が先行して報道された点は、科学コミュニケーションの難しさを表しているように感じました。

 

3.  オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る

  台湾のIT担当大臣のオードリー・タンさんの自著です。台湾は水際対策などに力をいれてCOVID-19の対策に成功した国ですが、デジタルを利用した取り組み事例が述べられています。一人ひとりがスマートフォンを所有する社会へと変化していくなかで、政治と国民の関係性を考える上でのヒントになるかと思います。AIが仕事を奪うようなAIによる負の側面が語られることもありますが、AIをよりよい社会に向けてどう活用していくのかという観点から前向きに語られています。

 

4. ディープメディス
ディープメディスン

ディープメディスン

 

  医療分野でのAI利用が幅広くまとめられています。普段から医療×AIはできるだけ情報をキャッチアップしようと心掛けていますが、知らない事例も多く面白かったです。医療AIにより目指していくビジョンも描かれつつ、いま到達できていることが具体的な事例でまとめられているので頭のなかを整理するのに役立ちました。医療AIに興味はあるがあまり知らない人でも、この1冊を読めばかなり見通しがつくのではないかと思います。

 

5. この一冊で全部わかる ビジネスモデル

  ビジネスモデルを考える機会があり、インプットとして読みました。競合優位性、収益構造や売り方について最近の事例も含めてわりときれいにまとまっておりよかったです。はじめて企画職に関わる人はとりあえず目を通しておいても損はないと思います。

 

6. 市場の倫理 統治の倫理

  社会の倫理を2種類の道徳体系として捉えて整理する試みがなされています。主張は「新たなものを獲得するには交換(Trade)するか奪う(Take)の2つしか存在せず、どちらの方法をとるかにより従うべき道徳が異なる。これらの道徳を混ぜると不道徳な結果が生じる」という非常にシンプルなものです。

  でてくる事例が少しとっつきにくく理解しづらい点はありましたが、一貫した主張がなされるので特に迷うことなく読み進められました。これから暫くはトレンドとしてTradeが中心になっていくのだろうと思いますが、Takeも一部残るとは思うので、そういうバランス感覚を考えるうえでも本書は役立ちそうです。

 

7. ネクスト・シェア

  資本主義が進んだあとの組織形態として協同組合が適しているのではないかということを具体的な事例から検討しています。あまり協同組合について考えたことがなかったのですが、対等な関係性で目的に向かって取り組んでいく繋がり方は今後のコミュニティのあり方としてはあり得るように思いました。協同組合ではないにしても、近しい考え方をベースとした国内事例はすでにあるような気もします。

 

8. 政策はなぜ検証できないのか
政策はなぜ検証できないのか: 政策評価制度の研究

政策はなぜ検証できないのか: 政策評価制度の研究

 

  この本を読むまで、政策評価制度という制度が法的に定められていることすら知りませんでした。ただ本書を読む限り評価制度のゆがみは大きく、この評価制度をもとにした評価から意思決定を行うのは極めて難しいだろうと思いました。本書では実際に評価する人らの心理面などの検討をしていますが、それ以外の箇所がボトルネックになっているような気がしておりやや不完全燃焼でした。

 

9. 証言 羽生世代
証言 羽生世代 (講談社現代新書)

証言 羽生世代 (講談社現代新書)

 

  ずっと将棋界を牽引されてきた羽生世代の棋士やその先輩、後輩へのインタビュー本です。今やAIにより盤面の状況判断がスコア化され正解がわかるようになりました。ただ印象的だったのは、そうではない羽生世代の棋士らはすべてを自分たちで考え抜いてきており、そこで指された将棋を今の将棋よりも好意的に口にする棋士がそれなりにいらしたことです。正解があるなかでの取り組みと正解がないなかで考え抜いてきたことの厚さの違いとでも言えるのでしょうか。

 一つの道を究めようとする人たちの言葉は貴重で非常によい本ですが、将棋のルールや戦法を全く知らないと途中わからないことも多いかもしれません。

10. 天才の根源
天才の根源

天才の根源

 

  エッセイを書くことは苦手なのですが読むことは好きなので定期的に買っています。今回はYoutuberの東海オンエアのリーダーのてつやさんの初の自著です。かなりの有名Youtuberで普段は企画を通じてみて楽しませてもらっていますが、こうして頭のなかで考えていることを知れるのは面白かったです。